moaiの音楽部屋

好きなアーティストのアルバムレビューやライブの感想など

Mr.Children 『IT'S A WONDERFUL WORLD』レビュー

Mr.Children 『IT'S A WONDERFUL WORLD』レビュー

f:id:moaiblog:20211019155902j:plain

 

データ

2002年5月10日発売

累計売上1,228,470枚

登場66週

 

作品概要

オリジナルアルバムとしてはQ』から約1年半ぶりとなる。メジャーデビューからちょうど10年となる5月10日に発売された。2001年頃から「優しい歌」などのレコーディングは開始していたが、ベストアルバムのプロモーション・ライブ活動も相まって、本作のレコーディングの時間が滞り、結果的にベスト・アルバムの発売が先行することになった。発売前は全13曲収録予定とされていたが、後に全15曲になった。

リスナーと向き合い、歌に重きを置いた内容のアルバムになっている。桜井和寿は「例えばそれが街で流れたときに、聞いた人が聞く意識もなく聞こえてきて、それがその人の中で育っていくっていう、それがポップの素晴らしさだなと思った」と語っている。

仮タイトルは『この醜くも美しい世界』であったが、鈴木英哉が『Dear wonderful world』はどうかと提案したことにより最終的に『IT'S A WONDERFUL WORLD』になった。また、メンバーは『BLUE TO BLUE』など複数のタイトル候補があったことを示唆している。

本作発売後にアルバムを引っ提げて、21か所を巡るホールツアー『Mr.Children TOUR 2002 DEAR WONDERFUL WORLD』、全5か所を巡るアリーナツアー『Mr.Children TOUR 2002 IT'S A WONDERFUL WORLD』を開催する予定だったが、直前に桜井が小脳梗塞を発症。治療の為に入院したことにより全公演が急遽中止となった。約半年の療養期間を経て、2002年12月21日に一夜限りの復活ライブ『TOUR 2002 DEAR WONDERFUL WORLD IT'S A WONDERFUL WORLD ON DEC 21』を横浜アリーナで開催した。

 

収録曲

①overture

②蘇生

Dear wonderful world

④one two three

⑤渇いたkiss

youthful days

⑦ファスナー

⑧Bird Cage

⑨LOVEはじめました

⑩UFO

⑪Drawing

君が好き

⑬いつでも微笑みを

優しい歌

⑮It's a wonderful world

※⑥21thシングル、⑫22thシングル、⑭20thシングル

 

総評

メジャーデビュー10周年を迎えた年にリリースされた10枚目の作品、というメモリアルなアルバム。

発売当初の不評、また売上としてもミリオン割れを記録した前作『Q』発売後に行われたツアー中、後のインタビューで「メンバーが音楽やってるときより酒飲んでる時の方が楽しそうな状態で進歩がなかった。解散まで考えた。」と振り返っているように、バンドとして明らかな低迷期にあった。危機感を覚えた桜井は、個人個人がレベルアップすることが必要であると考え、自分自身は「とにかく良い曲を書こう」として作ったポップな楽曲数曲をバンドでセッションする。その際に大きな手応えと可能性を感じた彼らは、「もう一度リスナーと向き合うため今までのMr.Childrenの流れを総括する」必要性を感じ、2001年夏にキャリア初となるベストアルバムをリリース、またこれを引っ提げたライブツアー『Mr.Children CONCERT TOUR POPSAURUS 2001』を開催。数年間演奏していなかった初期の曲から最新曲まで、特定の年代に偏ることのないセットリスㇳでバンドの歴史を振り返った。ベストアルバムは2枚共に『Q』の総売り上げを超える100万枚を初週のみで超えるセールスを記録する大成功を収め、再び動き出したバンドのエネルギーに手応えを感じた彼らは、本作のレコーディングに突入する。

結果、完成されたアルバムはバンドが一度は道を外れたポップス路線にもう一度向き合った作品となった。本作のリード曲である②は1番最後にレコーディングされた曲であるが、何度でも生まれ変われる、というポジティブな決意を歌っている。その後、アルバムのタイトルを元にした③とその続編となる⑮で挟まれた楽曲には、上質な歌詞やアレンジで纏められた充実したラインナップとなっている。歌詞の中に「ショーシャンクの空に」(④)「ウルトラマン」「仮面ライダー」(⑦)「中田」(⑨)と言ったように固有名詞が多く登場する点も特徴だ。

ベストアルバム2作と同時にリリースされた⑭は今作のプロローグとして制作されたシングルであるが、ファンへの思いやエール、過去のMr.Childrenへのメッセージ、これからのMr.Childrenの音楽性の変化への決意が込められており、3分弱のバンドサウンドがアルバムの並びで聴くからこそ胸に響く作りになっている。バンドのキャリア史上転換期と呼べる時期にリリースされた作品であること、またアルバムとしての完成度も踏まえ、個人的には未だに最高傑作と考えている金字塔である。

 

評価

★★★★★★★★★★(10点/10点中)