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Mr.Children『Q』レビュー

Mr.Children 『Q』レビュー

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データ

2000年9月27日発売

累計売上896,890枚

登場14週

 

作品概要

通常盤のみで発売。前作『1/42』から約1年ぶり、オリジナル・アルは7thアルバム『DISCOVERY』から約1年8ヶ月ぶりとなるアルバム。

本作のセッションは桜井のプライベートスタジオで以前から行われていたが、セッション終了後にニューヨークの「Oorong NY Studio」に移動。このスタジオは小林が所有していたスタジオであり、レコーディングが行われた時期は丁度スタジオが完成した直後だったといい、ニューヨークでは以前のセッションで作り上げていた曲のイントロ、アウトロ、伴奏などの構成を小林と桜井の二人でミーティングし、新たに構成し直した物を再びバンドで演奏するという形で作業が行われた。

ジャケットは、桜井和寿潜水服を着用しているもので、「深海からの脱出」という意味も込められている。アートディレクターは信藤三雄アルバムタイトルは本作が9枚目ということにちなんで、レコーディングの初期に桜井が遊び心で譜面などに小文字で「q」と書いていたものをメンバーやスタッフが気に入ったことに由来する。そのため桜井は、「『Q』という言葉自体に深い意味はない」と述べている。

曲のテンポをダーツの合計点によって決めたり、コード進行をくじ引きによって決めたりと、非常に自由なセッションによって制作が進められた。そのため、作曲クレジットがMr.Childrenとなっている曲も存在している。一方で「つよがり」のようなバンドが目立たない曲(桜井曰く「ソロシンガーとして歌うような曲」)も収録されている

同日発売の『Duty』(浜崎あゆみ)に阻まれてオリコンチャート初登場2位となり、連続1位獲得記録は5作でストップした。累計売上は89万枚であり、3rdアルバム『Versus』以来6作ぶりに100万枚を下回った(日本レコード協会からはミリオン認定を受けている)。初めて1位を獲得した4thアルバム『Atomic Heart』以降のオリジナルアルバムで1位を獲得できなかったのは本作のみである。

 

収録曲

①CENTER OF UNIVERSE

②その向こうへ行こう

NOT FOUND

④スロースターター

⑤Surrender

⑥つよがり

⑦十二月のセントラルパークブルース

⑧友とコーヒーと嘘と胃袋

ロードムービー

⑩Everything is made from a dream

口笛

⑫Hallelujah

⑬安らげる場所

※③19thシングル、⑪18thシングル

 

総評

「問題作にして最高傑作」という声が多いアルバムである。先ず、潜水服を着用した桜井がこちらを睨みつけているジャケットからして異質な雰囲気を醸し出している。また、タイトルの『Q』。上記の作品概要にあるように、桜井曰く「深い意味はない」ということであるが、(『1/42』を含めて)彼らの9枚目のオリジナル・アルバムであることや、発売月が9月であったことなどが掛けられているのだろうか。そして、極めつけは収録曲の自由さだ。

「すべては捉え方次第」というメッセージを歌い上げる①からしてダーツの合計点で曲のテンポが決定されており、続く②と④ではそれぞれ「もしMr.Childrenが『バカボンド』のテーマ曲」「メンバーが所属しているサッカーチームのゴールシーンで流れる曲」というコンセプトで制作。また、間奏部分に酔っぱらった状態の桜井による語りが挿入された⑧や同じく間奏にスタジオのスタッフに一通り台詞を読ませたものを切り貼りした⑩など、「コンセプトがないというコンセプト」とでも言うような自由奔放でバラエティに富んだ楽曲の多さこそ、根強いミスチルファンに今作が支持を集める理由であろう。

前作『DISCOVERY』はまだ活動休止明けのリハビリを兼ねていることもあり、緊張感のあるシリアスな作風であったが、今作は「深海からの脱出」というアルバムのテーマの通り、苦悩や迷いから完全に吹っ切れたかのような印象を受ける。実際、『深海』期にNYでレコーディングした頃の自分を振り返るという内容の⑦について、桜井は「どっかから飛び降りようと思ったくらい悩んでたときの自分を今、笑って歌えるみたいな。笑えるだけの強さが取り戻せた」と語っている。アルバムのクライマックス、愛する人への想いを歌った壮大なラブソング⑫を経て、トリ飾る⑬では、長く続いた苦悩の旅路の果てにようやく「安らげる場所」へと辿り着いたことを感じさせる。

完全に大衆受けを狙っていない内容ということもあってか発売当時は『Atomic heart』以降で初めてミリオンを割り、オリコンチャート1位獲得も逃すなど、バンドの低迷を印象づけてしまう形にはなったが、聞き込めば聞き込むほど味が出てくるような、Mr.Children玄人向けの名盤である。

 

評価

★★★★★★★★★☆(9点/10点中)