moaiの音楽部屋

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Mr.Children 『IT'S A WONDERFUL WORLD』レビュー

Mr.Children 『IT'S A WONDERFUL WORLD』レビュー

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データ

2002年5月10日発売

累計売上1,228,470枚

登場66週

 

作品概要

オリジナルアルバムとしてはQ』から約1年半ぶりとなる。メジャーデビューからちょうど10年となる5月10日に発売された。2001年頃から「優しい歌」などのレコーディングは開始していたが、ベストアルバムのプロモーション・ライブ活動も相まって、本作のレコーディングの時間が滞り、結果的にベスト・アルバムの発売が先行することになった。発売前は全13曲収録予定とされていたが、後に全15曲になった。

リスナーと向き合い、歌に重きを置いた内容のアルバムになっている。桜井和寿は「例えばそれが街で流れたときに、聞いた人が聞く意識もなく聞こえてきて、それがその人の中で育っていくっていう、それがポップの素晴らしさだなと思った」と語っている。

仮タイトルは『この醜くも美しい世界』であったが、鈴木英哉が『Dear wonderful world』はどうかと提案したことにより最終的に『IT'S A WONDERFUL WORLD』になった。また、メンバーは『BLUE TO BLUE』など複数のタイトル候補があったことを示唆している。

本作発売後にアルバムを引っ提げて、21か所を巡るホールツアー『Mr.Children TOUR 2002 DEAR WONDERFUL WORLD』、全5か所を巡るアリーナツアー『Mr.Children TOUR 2002 IT'S A WONDERFUL WORLD』を開催する予定だったが、直前に桜井が小脳梗塞を発症。治療の為に入院したことにより全公演が急遽中止となった。約半年の療養期間を経て、2002年12月21日に一夜限りの復活ライブ『TOUR 2002 DEAR WONDERFUL WORLD IT'S A WONDERFUL WORLD ON DEC 21』を横浜アリーナで開催した。

 

収録曲

①overture

②蘇生

Dear wonderful world

④one two three

⑤渇いたkiss

youthful days

⑦ファスナー

⑧Bird Cage

⑨LOVEはじめました

⑩UFO

⑪Drawing

君が好き

⑬いつでも微笑みを

優しい歌

⑮It's a wonderful world

※⑥21thシングル、⑫22thシングル、⑭20thシングル

 

総評

メジャーデビュー10周年を迎えた年にリリースされた10枚目の作品、というメモリアルなアルバム。

発売当初の不評、また売上としてもミリオン割れを記録した前作『Q』発売後に行われたツアー中、後のインタビューで「メンバーが音楽やってるときより酒飲んでる時の方が楽しそうな状態で進歩がなかった。解散まで考えた。」と振り返っているように、バンドとして明らかな低迷期にあった。危機感を覚えた桜井は、個人個人がレベルアップすることが必要であると考え、自分自身は「とにかく良い曲を書こう」として作ったポップな楽曲数曲をバンドでセッションする。その際に大きな手応えと可能性を感じた彼らは、「もう一度リスナーと向き合うため今までのMr.Childrenの流れを総括する」必要性を感じ、2001年夏にキャリア初となるベストアルバムをリリース、またこれを引っ提げたライブツアー『Mr.Children CONCERT TOUR POPSAURUS 2001』を開催。数年間演奏していなかった初期の曲から最新曲まで、特定の年代に偏ることのないセットリスㇳでバンドの歴史を振り返った。ベストアルバムは2枚共に『Q』の総売り上げを超える100万枚を初週のみで超えるセールスを記録する大成功を収め、再び動き出したバンドのエネルギーに手応えを感じた彼らは、本作のレコーディングに突入する。

結果、完成されたアルバムはバンドが一度は道を外れたポップス路線にもう一度向き合った作品となった。本作のリード曲である②は1番最後にレコーディングされた曲であるが、何度でも生まれ変われる、というポジティブな決意を歌っている。その後、アルバムのタイトルを元にした③とその続編となる⑮で挟まれた楽曲には、上質な歌詞やアレンジで纏められた充実したラインナップとなっている。歌詞の中に「ショーシャンクの空に」(④)「ウルトラマン」「仮面ライダー」(⑦)「中田」(⑨)と言ったように固有名詞が多く登場する点も特徴だ。

ベストアルバム2作と同時にリリースされた⑭は今作のプロローグとして制作されたシングルであるが、ファンへの思いやエール、過去のMr.Childrenへのメッセージ、これからのMr.Childrenの音楽性の変化への決意が込められており、3分弱のバンドサウンドがアルバムの並びで聴くからこそ胸に響く作りになっている。バンドのキャリア史上転換期と呼べる時期にリリースされた作品であること、またアルバムとしての完成度も踏まえ、個人的には未だに最高傑作と考えている金字塔である。

 

評価

★★★★★★★★★★(10点/10点中)

Mr.Children『Q』レビュー

Mr.Children 『Q』レビュー

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データ

2000年9月27日発売

累計売上896,890枚

登場14週

 

作品概要

通常盤のみで発売。前作『1/42』から約1年ぶり、オリジナル・アルは7thアルバム『DISCOVERY』から約1年8ヶ月ぶりとなるアルバム。

本作のセッションは桜井のプライベートスタジオで以前から行われていたが、セッション終了後にニューヨークの「Oorong NY Studio」に移動。このスタジオは小林が所有していたスタジオであり、レコーディングが行われた時期は丁度スタジオが完成した直後だったといい、ニューヨークでは以前のセッションで作り上げていた曲のイントロ、アウトロ、伴奏などの構成を小林と桜井の二人でミーティングし、新たに構成し直した物を再びバンドで演奏するという形で作業が行われた。

ジャケットは、桜井和寿潜水服を着用しているもので、「深海からの脱出」という意味も込められている。アートディレクターは信藤三雄アルバムタイトルは本作が9枚目ということにちなんで、レコーディングの初期に桜井が遊び心で譜面などに小文字で「q」と書いていたものをメンバーやスタッフが気に入ったことに由来する。そのため桜井は、「『Q』という言葉自体に深い意味はない」と述べている。

曲のテンポをダーツの合計点によって決めたり、コード進行をくじ引きによって決めたりと、非常に自由なセッションによって制作が進められた。そのため、作曲クレジットがMr.Childrenとなっている曲も存在している。一方で「つよがり」のようなバンドが目立たない曲(桜井曰く「ソロシンガーとして歌うような曲」)も収録されている

同日発売の『Duty』(浜崎あゆみ)に阻まれてオリコンチャート初登場2位となり、連続1位獲得記録は5作でストップした。累計売上は89万枚であり、3rdアルバム『Versus』以来6作ぶりに100万枚を下回った(日本レコード協会からはミリオン認定を受けている)。初めて1位を獲得した4thアルバム『Atomic Heart』以降のオリジナルアルバムで1位を獲得できなかったのは本作のみである。

 

収録曲

①CENTER OF UNIVERSE

②その向こうへ行こう

NOT FOUND

④スロースターター

⑤Surrender

⑥つよがり

⑦十二月のセントラルパークブルース

⑧友とコーヒーと嘘と胃袋

ロードムービー

⑩Everything is made from a dream

口笛

⑫Hallelujah

⑬安らげる場所

※③19thシングル、⑪18thシングル

 

総評

「問題作にして最高傑作」という声が多いアルバムである。先ず、潜水服を着用した桜井がこちらを睨みつけているジャケットからして異質な雰囲気を醸し出している。また、タイトルの『Q』。上記の作品概要にあるように、桜井曰く「深い意味はない」ということであるが、(『1/42』を含めて)彼らの9枚目のオリジナル・アルバムであることや、発売月が9月であったことなどが掛けられているのだろうか。そして、極めつけは収録曲の自由さだ。

「すべては捉え方次第」というメッセージを歌い上げる①からしてダーツの合計点で曲のテンポが決定されており、続く②と④ではそれぞれ「もしMr.Childrenが『バカボンド』のテーマ曲」「メンバーが所属しているサッカーチームのゴールシーンで流れる曲」というコンセプトで制作。また、間奏部分に酔っぱらった状態の桜井による語りが挿入された⑧や同じく間奏にスタジオのスタッフに一通り台詞を読ませたものを切り貼りした⑩など、「コンセプトがないというコンセプト」とでも言うような自由奔放でバラエティに富んだ楽曲の多さこそ、根強いミスチルファンに今作が支持を集める理由であろう。

前作『DISCOVERY』はまだ活動休止明けのリハビリを兼ねていることもあり、緊張感のあるシリアスな作風であったが、今作は「深海からの脱出」というアルバムのテーマの通り、苦悩や迷いから完全に吹っ切れたかのような印象を受ける。実際、『深海』期にNYでレコーディングした頃の自分を振り返るという内容の⑦について、桜井は「どっかから飛び降りようと思ったくらい悩んでたときの自分を今、笑って歌えるみたいな。笑えるだけの強さが取り戻せた」と語っている。アルバムのクライマックス、愛する人への想いを歌った壮大なラブソング⑫を経て、トリ飾る⑬では、長く続いた苦悩の旅路の果てにようやく「安らげる場所」へと辿り着いたことを感じさせる。

完全に大衆受けを狙っていない内容ということもあってか発売当時は『Atomic heart』以降で初めてミリオンを割り、オリコンチャート1位獲得も逃すなど、バンドの低迷を印象づけてしまう形にはなったが、聞き込めば聞き込むほど味が出てくるような、Mr.Children玄人向けの名盤である。

 

評価

★★★★★★★★★☆(9点/10点中)

Mr.Children『DISCOVERY』レビュー

Mr.Children 『DISCOVERY』

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データ

1999年2月3日発売

累計売上1,814,180枚

登場20週

 

作品概要

活動休止期間を経て前作『BOLERO』から約1年11ヶ月ぶりのアルバム。ジャケットには久々にメンバー全員の顔が写っている。

14thシングル「ニシエヒガシエ」のカップリング曲のリミックスバージョン2曲、16thシングル「光の射す方へ」のカップリング曲「独り言」は未収録となった。

制作当初は何の決め事も無く、肩の力を抜いて作られた。レコーディングは彼らのプライベート・スタジオで行われ、デビュー当時のように合宿しながらその日の気分または天候によって演奏する曲が決められた[1]。メンバーも楽しんでレコーディングができたと語っている。6分以上の曲が3曲収録されており、Mr.Childrenのアルバムでは初めて収録時間が1時間を超えた。

オリコンチャートで4作連続初登場1位を獲得。初週で111万枚を売り上げ累計売上は180万枚を突破し、アルバムでは通算5作目のミリオンセラーを達成。

小林武史は発売当時「これまでで最高のアルバムができた」と評したが、桜井和寿は『IT'S A WONDERFUL WORLD』のプロモーション時に「もし『DISCOVERY』の頃の自分がこんな曲を書けていたら、あの頃にあんな迷走はしなかっただろう」と本作についてやや否定的な発言をしている。

 

収録曲

①DISCOVERY

光の射す方へ

③Prism

④アンダーシャツ

ニシエヒガシエ

⑥Simple

I'll be

⑧#2601

⑨ラララ

終わりなき旅

⑪Image

※②16thシングル、⑤14thシングル、⑦後に17thシングルとしてカット、⑩15thシングル

 

総評

約1年間の活動休止を挟んだ後に発表された、復帰作となるアルバム。

荒廃した大地をバックにしたモノクロジャケットそのイメージ通り、繰り返される重々しいイントロが耳に残る①でアルバムは幕を開ける。以降、これまでの彼らのシングルには無かったような生楽器と打ち込みが絡み合う複雑な曲構成で作られた実験作とも言える②や⑤、ドラム・鈴木が作曲に参加したハード・ロック⑧などサウンド面での進化を見せるものの、歌詞の内容としてはまだ『深海』『BOLERO』期を引き摺っているような印象を受ける。

上記のように、暗闇の中を必死に彷徨い続けるような楽曲が続くアルバムであるが、後半の3曲で大きな転換を迎える。ありふれた日常に散りばめられたかけがえなさをフォーキーに歌い上げる⑨、本作のクライマックスであると同時にもう一度果てしない未来へ歩んでいく宣言を歌ったロック・バラード⑩、そしてストリングスのサウンドをバックに「楽しく生きてゆくImageを膨らまして暮らそうよ」と締め括る⑪と、長く続いてきた自分探しの旅時(=DISCOVERY)にようやく出口を見つけたような着地に救われる。

正直初聴時は「『終わりなき旅』ありきのアルバム」という感想を抱いてしまったが、後に王道のポップスへ回帰することになるバンド史の中で最も攻めたハードロックなサウンドが聴ける点も含め、彼らのキャリアの中で重要な意味を持つ1枚。

 

評価

★★★★★★★★☆☆(8点/10点中)

Mr.Children 『BOLERO』レビュー

Mr.Children 『BOLERO』

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データ

1997年3月5日発売

累計売上3,283,270枚

登場36週

 

作品概要

前作『深海』から約8ヶ月ぶりとなるオリジナルアルバム。前作のアナログ・サウンドとは対照的に今作ではデジタル・サウンドを意識して制作され、10日間ほどロンドンに滞在し、レコーディングが行われた。

前作に収録されたシングル曲が10thシングル「名もなき詩」、11thシングル「花 -Mémento-Mori-」の2曲のみで(ただし「マシンガンをぶっ放せ」は後に12thシングル「マシンガンをぶっ放せ -Mr.Children Bootleg-」としてシングルカットされた)、4thアルバム『Atomic Heart』以降に発売されたシングル曲はアルバム未収録となっていた。そのため、本作には6thシングル「Tomorrow never knows」、7thシングル「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」、8thシングル「【es】 〜Theme of es〜」、9thシングル「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」、13thシングル「Everything (It's you)」の5曲が余さず収録された。本作は12曲中8曲でミュージック・ビデオも製作されており、自身のアルバムで最も多い数となっている。

発売前に一部雑誌には「青盤(『深海』)」と「赤盤(『BOLERO』)」による2枚組という情報が流れた経緯もあり、『深海』と同時期に制作されていたが同作のテーマにはそぐわないという理由で収録しなかった曲もあるため、対になっている面がある。当時の雑誌インタビューで桜井は「(『深海』と『BOLERO』は)3Dメガネの青と赤のようなもの。両方揃って初めて立体に見える」と述べた。大ヒットしたシングル曲が多く、これらが収録されたのは「ファンへの感謝の気持ち」とのこと。一方、プロデューサーの小林は「(ベスト盤的な要素のある)このアルバムは、いいものなのかどうか解らない…」と評価を濁している。

ジャケットは異国の少女が1人、一面に咲き広がる向日葵の中でボレロの代名詞でもあるスネアを叩いている写真でメンバー以外の人物がジャケットに起用されたのは本作が初

 

収録曲

①prologue

Everything(It's you)

③タイムマシーンに乗って

④Brand new my lover

【es】~Theme of es~

シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~

⑦傘の下の君に告ぐ

⑧ALIVE

⑨幸せのカテゴリー

everybody goes-秩序のない現代にドロップキック-

ボレロ

Tomorrow never knows (remix)

※②13thシングル、⑤8thシングル、⑥9thシングル、⑩7thシングル、⑫6thシングル

 

総評

活動休止前にリリースされた6thアルバム。「ミスチル現象」期にリリースされた⑫⑩⑤⑥を含むミリオンヒットシングルを5曲収録していることもあり、総売り上げは『深海』を大きく超えるセールスを記録している一方で、その豪華な内容故に「単なるベスト・アルバム(に近い)」アルバムでしかない、と揶揄されることも多い作品である。実際、桜井や小林は今作をあまり気に入っていない様である。ただ、個人的には今作のアルバム曲は唯一無二の名曲の宝庫であり、ここにこそこのアルバムの価値があると思っている。

資本主義社会への皮肉を歌った③⑦、当時の桜井の私生活の状況が余りに生々しく聴こえてくる④⑨、そして「どんなに絶望的な状況でも生きている限り光(=希望)はある」と歌う⑧は、今作の核とも言うべきハイライトであろう。

あの有名クラシックをサンプリングしたアルバム・タイトル曲「ボレロ」のマーチでクライマックスを迎え、最後にリミックス・バージョンの⑫が収録されているが、このアルバムのリリースを境に活動休止するバンドの歴史を振り返ると、単なるボーナス・トラックではなく、大団円として聴こえてくる。

 

評価

★★★★★★★★☆☆(8点/10点中)

Mr.Children『深海』レビュー

Mr.Children 『深海』

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データ

1996年6月24日発売

累計売上2,744,950枚

登場46週

 

作品概要

前作『Atomic Heart』から約1年10ヶ月ぶりのアルバムであり、初のコンセプト・アルバム。レコーディングは大半がニューヨークのウォーター・フロント・スタジオで1995年12月下旬から1996年4月上旬にかけて行われた。 60-70年代のビンテージ機材を使用したアナログレコーディングに拘っている。

累計売上は274.5万枚(オリコン調べ)で、前作より減少したが、当時のアルバムチャートでは歴代1位の初週売り上げ153.6万枚を記録。

発売前の雑誌には「青盤(『深海』)」と「赤盤(『BOLERO』)」による2枚組という情報も流れていた。桜井は「『深海』は『BOLERO』の中の1曲として捉えている」と語っており、曲ごとにトラックで分けず全体で1トラックにすることも考えていた。そのため全曲にはほぼ曲間がなく、いくつかの曲はノンストップで繋いでいる。当初桜井はアルバムタイトルを『シーラカンス』にしようと考えその旨をメンバーに話したところ「深海?」と聞き返され、それが非常に強く印象に残ったため最終的に『深海』をタイトルに採用したという逸話も残っている。

 

収録曲

①Dive

シーラカンス

③手紙

④ありふれたLove Story~男女問題はいつも面倒だ~

⑤Mirror

⑥Making Songs

名もなき詩

⑧So Let's Get Truth

⑨臨時ニュース

⑩マシンガンをぶっ放せ

ゆりかごのある丘から

⑫虜

花-Memento Mori-

⑭深海

※⑦10thシングル、⑫後に12thシングルとしてシングルカット、⑬11thシングル

 

総評

邦楽史に残る特大ヒットとなった前作『Atomic Heart』以降、『Tomorrow never knows』『everybody goes』『es』『シーソーゲーム』と次々にミリオンヒット連発し、空前のミスチル現象」真っ只中にリリースされた、バンド史上初のコンセプト・アルバムにして、最大の問題作。これまでの爽やかなバンドの雰囲気をぶち壊すような内省的な歌詞と重苦しいサウンドは当時のミスチルファンだけに留まらず多くのリスナーに衝撃を与えたことは想像に難しくない。

ここまでの作風となった背景として、桜井の不倫スキャンダル、過密で超多忙なスケジュール、文字通りセールスの「頂点」を手にしたことによる虚無感など幾つもの説が考えられるが、やはり1番大きい要素となったのは当時本気で自殺を考えていたとインタビューで語られる程深刻であった桜井のプライベート問題であろう。実際、当時の状況が生々しく歌われた④や⑦、⑫には、「ピュアなラヴソングはもう書けない。このぐちゃぐちゃを吐き出してやろう」という桜井のいわばヤケクソな心境が綴られている。

 

だが、個人的にこのアルバムの素晴らしさは、『深海』というテーマが見事な統一感でパッケージされている点にあると思っている。「アルバムのコンセプトに合わない」として『Tomorrow never konows』~『シーソーゲーム』までのヒットシングルを排除。また、引き合いにイギリスのロックバンド、ピンク・フロイドの『狂気』が持ち出されることが多いが、曲間がシームレスに繋がっているトラックが多く、非常に芸術性が高い。ニューヨークのウォーター・フロント・スタジオでレコーディングされたアナログ色も、重く寒々しい楽曲と抜群の相性を見せている。

 

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怒涛の展開で進んでいく物語のクライマックスは、ラテン語で「死を想え」という意味がタイトルに込められた⑬と、②⑪でも繰り返し登場する「シーラカンス」に導かれるように深海を漂う⑭で幕を閉じる。アウトロで聞こえてくるSEは、深海から浮上する音にも、更に海の比較まで潜っていく音にも捉えられる。

 

評価

★★★★★★★★★★(10点/10点中)

Mr.Children『Atomic Heart』レビュー

Mr.Children 『Atomic Heart』

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データ

1994年9月1日発売

累計売上3,429,650枚

登場96週

 

作品概要

前作『Versus』から1年ぶりのアルバム。発売時は邦楽アルバム歴代最高売上を記録し、自身の最大のヒットアルバムとなっている。小林武史は、本作から方向性が恋愛路線から精神論へと変化してきたことを指摘している。

ジャケットブルーバックに白文字で「Mr.Children・Atomic Heart」と小さく表記されているのみ。初回限定盤はブルーのプラスチックスリーブに水色のカラーCDケースが収納されている仕様であり、歌詞カードの表紙は表記のない水色の無地。初めてインストゥルメンタルが収録された作品で、本作以降Mr.Childrenの全作品で公式にインストゥルメンタルは斜体文字で表記されている。Mr.Childrenのアルバムでは最もシングルカットされた曲(カップリング曲やリミックスバージョンを含む)とベストアルバムに収録された曲が多い作品でもある。

 

収録曲

①Printing

②Dance Dance Dance

③ラヴ コネクション

innocent world

⑤クラスメイト

CROSS ROAD

⑦ジェラシー

⑧Asia (エイジア)

⑨Rain

⑩雨のち晴れ

⑪Round About ~孤独の肖像~

⑫Over

※④5thシングル、⑥4thシングル

 

総評

1stから3rdまでの「爽やかな渋谷系ポップバンド」路線から完全に脱却し、Mr.Childrenを国民的モンスターバンドへ押し上げた4th。収録曲数こそインストゥルメンタル2曲を除くと前作と変わらない10曲であるが、その楽曲の幅広さこそこのアルバムの肝であろう。

具体的には、まずお茶の間まで浸透しMr.Childrenの名を世に知らしめた大ヒットシングル④⑥、デビューからライブの舞台としていたライブハウスやホールを超え、より大きなステージ(武道館、ドーム、スタジアム...)での演奏を目論んだキラーチューン②③⑪、これまでの路線を受け継ぐポップソング⑤⑫、そしてサウンドやアレンジ含め明らかに実験作の試みとして作られたであろう⑦⑧⑩...といった具合だ。

本アルバム制作の様子は書籍『【es】 Mr.Children in 370 DAYS』に生々しく記されているが、小林を含めた彼ら自身が「『CROSS ROAD』『innocent world』を当てたグループ」だけでは終わりたくなかったからこそ、所謂「売れ線」の楽曲ばかり並んだアルバムにしたくなかったのだろう。 

 

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『Atomic Heart』というタイトルは、初期から桜井が描いてきたセンチメンタルな青春の恋愛、そして大ブレイクにより当時のバンドを取り巻いていた熱狂的なムードまでも客観的に分析しているかのような、どこか無機質で哲学的な雰囲気を象徴しているのではないだろうか。

 

評価

★★★★★★★★★☆(9点/10点中)

Mr.Children 『Versus』レビュー

Mr.Children 『Versus』

Versus

データ

1993年9月1日発売

累計売上802,140枚

登場105週

 

作品概要

 前作『Kind of Love』から約9ヶ月ぶりのアルバム。

アルバムタイトルは、前作の流れを継ぐポップな曲と、セッション主体で作られたバンドサウンドの曲が対(Versus)になるように約半分ずつ収録されていることに由来する。また、バンドとして初めのニューヨークのウォーター・フロント・スタジオでもレコーディングが行われた。オリコンチャートでは初登場3位で自身初のトップ3入りを果たし、累計売上は約80万枚を記録するスマッシュヒットを記録。

初回限定盤はクリアスリーブにCDケースと大型歌詞カードが収められており、上部に「LIMITED EDITION SEE THROUGH DUST COVER」と書かれている。写真はスリーブに印刷され、下のディスクが透けて見える仕様となっている。

 

収録曲

①Another Mind

②メインストリートに行こう

③and i close to you

Replay

⑤マーマレッド・キッス

⑥蜃気楼

⑦逃亡者

⑧LOVE

⑨さよならは夢の中へ

⑩my life

※④3rdングル

 

総評

 2ndアルバム『Kind of Love』がやや桜井のソロアルバム寄りの作りになってしまったことを反省してか、ポップな曲とバンド色の強い曲を半分ずつ収めた3rdアルバム。タイトルには、「暗」な曲が奇数、「明」な曲が偶数に収録されていることにも由来しているという。

TVCMソングにもタイアップされたキャッチーなサビが印象的な3rdシングル④やベストアルバムにも収録されファン人気も高い⑧⑩を除くと、やや地味な楽曲が並ぶためどうしてもアルバムとしての存在感は薄いのが正直な感想。それでも、これまでの歌詞には見られなかった内省的なリリックが強烈な①などには、既に『深海』の桜井が垣間見れる点は見逃せない。

このアルバム後にリリースされる自身初のミリオンヒット作『CROSS ROAD』を境に国民的スターダムへとのし上がっていくミスチルであるが、今作は言わば「蝶になり羽ばたく前のサナギ」状態のバンドを映し出した立ち位置の作品である。

 

評価

★★★★★★☆☆☆☆(6点/10点中)