Mr.Children『深海』レビュー
Mr.Children 『深海』
データ
1996年6月24日発売
累計売上2,744,950枚
登場46週
作品概要
前作『Atomic Heart』から約1年10ヶ月ぶりのアルバムであり、初のコンセプト・アルバム。レコーディングは大半がニューヨークのウォーター・フロント・スタジオで1995年12月下旬から1996年4月上旬にかけて行われた。 60-70年代のビンテージ機材を使用したアナログレコーディングに拘っている。
累計売上は274.5万枚(オリコン調べ)で、前作より減少したが、当時のアルバムチャートでは歴代1位の初週売り上げ153.6万枚を記録。
発売前の雑誌には「青盤(『深海』)」と「赤盤(『BOLERO』)」による2枚組という情報も流れていた。桜井は「『深海』は『BOLERO』の中の1曲として捉えている」と語っており、曲ごとにトラックで分けず全体で1トラックにすることも考えていた。そのため全曲にはほぼ曲間がなく、いくつかの曲はノンストップで繋いでいる。当初桜井はアルバムタイトルを『シーラカンス』にしようと考えその旨をメンバーに話したところ「深海?」と聞き返され、それが非常に強く印象に残ったため最終的に『深海』をタイトルに採用したという逸話も残っている。
収録曲
①Dive
③手紙
④ありふれたLove Story~男女問題はいつも面倒だ~
⑤Mirror
⑥Making Songs
⑧So Let's Get Truth
⑨臨時ニュース
⑩マシンガンをぶっ放せ
⑪ゆりかごのある丘から
⑫虜
⑬花-Memento Mori-
⑭深海
※⑦10thシングル、⑫後に12thシングルとしてシングルカット、⑬11thシングル
総評
邦楽史に残る特大ヒットとなった前作『Atomic Heart』以降、『Tomorrow never knows』『everybody goes』『es』『シーソーゲーム』と次々にミリオンヒット連発し、空前の「ミスチル現象」真っ只中にリリースされた、バンド史上初のコンセプト・アルバムにして、最大の問題作。これまでの爽やかなバンドの雰囲気をぶち壊すような内省的な歌詞と重苦しいサウンドは当時のミスチルファンだけに留まらず多くのリスナーに衝撃を与えたことは想像に難しくない。
ここまでの作風となった背景として、桜井の不倫スキャンダル、過密で超多忙なスケジュール、文字通りセールスの「頂点」を手にしたことによる虚無感など幾つもの説が考えられるが、やはり1番大きい要素となったのは当時本気で自殺を考えていたとインタビューで語られる程深刻であった桜井のプライベート問題であろう。実際、当時の状況が生々しく歌われた④や⑦、⑫には、「ピュアなラヴソングはもう書けない。このぐちゃぐちゃを吐き出してやろう」という桜井のいわばヤケクソな心境が綴られている。
だが、個人的にこのアルバムの素晴らしさは、『深海』というテーマが見事な統一感でパッケージされている点にあると思っている。「アルバムのコンセプトに合わない」として『Tomorrow never konows』~『シーソーゲーム』までのヒットシングルを排除。また、引き合いにイギリスのロックバンド、ピンク・フロイドの『狂気』が持ち出されることが多いが、曲間がシームレスに繋がっているトラックが多く、非常に芸術性が高い。ニューヨークのウォーター・フロント・スタジオでレコーディングされたアナログ色も、重く寒々しい楽曲と抜群の相性を見せている。
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怒涛の展開で進んでいく物語のクライマックスは、ラテン語で「死を想え」という意味がタイトルに込められた⑬と、②⑪でも繰り返し登場する「シーラカンス」に導かれるように深海を漂う⑭で幕を閉じる。アウトロで聞こえてくるSEは、深海から浮上する音にも、更に海の比較まで潜っていく音にも捉えられる。
評価
★★★★★★★★★★(10点/10点中)